昨今流行りのAIやディープラーニングといった技術の活用に注目が集まっており、大手企業におけるビジネス現場での活用や、最新技術の研究開発のニュースが世間を賑わせています。
最近も、ディープラーニング技術を応用した自動翻訳サービス「DeepL」が「Google翻訳超え」と話題になったりしています。
さらにはOpenAIが開発した言語生成モデル「GPT-3」がシリコンバレーで話題騒然となっており、その大いなる可能性について取り上げています。
しかし、騒がれるのはGAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)やBATH(Baidu, Alibaba, Tencent, Huawai)を筆頭に海外の事例ばかりで、日本からの明るいニュースが出てこない状況です。
私も一人のビジネスマンとしてこの領域には非常に興味を持っており、日本発の新たなAIビジネスの創出に携わっていきたいと考えておりますが、一方でオープンインターネット以降、世界に対して日本のプレゼンスを示せていない状況が長く続いていることを忸怩たる思いで見ております。
日本がここまで世界に差をつけられているのはなぜなのでしょう?
この状況を打破する解を知りたい人に、この本をオススメしたいと思います。
どんな人向けの本か
この本の著者である、ヤフーCSOの安宅和人さんが、膨大な調査データを基に日本が抱える問題に真正面から向き合い、閉塞感漂う現状から微かに見える一筋の道を示しているのが本書になります。
この本に興味を持ったのは、ちょうどG検定の勉強を進めていた頃で、対策の一環で読み進めていた「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」を読了したタイミングでした。
タイトルからAIについて書かれた書籍ということで興味を惹かれたのと、書店で見かけた際になかなかの分厚さだったので、一体どんな内容がまとめられているのだろうと気になったのがきっかけでした。
(ちなみに、G検定は無事合格しました。)
正直なところ、読む前はタイトルからポジティブな内容が書かれているものと勝手に想像してましたが、実際に読み進めてみると、私も漠然と感じていた日本経済のこのところの元気のない原因の一端が垣間見えたような気がしてます。
こんな方におすすめ
- AI領域において日本がどのように世界と戦うべきか興味がある人
- AI時代に向けてどのようなスキルが必要か知りたい人
- 日本の将来を担う学生
本書のポイント
本書では、大きく以下について語られています。
- 日本人一人ひとりへの警鐘
- AI×データ時代の本格的な到来に向けた未来への希望
- 現在を生きる我々ができること
それぞれについて説明していきます。
日本人一人ひとりへの警鐘
著者は、現在の世の中への閉塞感に対して警鐘を鳴らしており、このままではAI×データ時代において日本は負けっぱなしのままで終わってしまうことを憂慮しております。
既存の延長上に未来はない、そのためには今からでも変わらないといけない、と声高に主張しております。
2018年のGDP世界ランキングにおいて、日本はアメリカ、中国について世界3位に位置していますが、過去25年を振り返ると、世界のアップトレンドと比較して日本の成長はほぼ横ばいに進んでいます。
かつては世界2位に位置していた日本ですが、2010年代になり中国に追い抜かれてからは上位2ヶ国との差は開くばかりか、4位のドイツとの差も縮まりつつあります。
一方、日本は今現在も世界3位の経済大国であるため、この状況に無意識に甘んじている感覚があるのは、私も含め多くの日本人が感じているのではないかと思います。
本書において著者はこの点を指摘しており、十分な伸びしろが残されている現状に期待を抱くとともに、この伸びしろに甘んじている状況を打破する必要があると訴えています。
AI×データ時代の本格的な到来に向けた未来への希望
冒頭にも述べたように、今後AI×データ時代が本格化していくことは間違いない世の中において、大きくビハインドを背負っている日本が再びゲームチェンジを演じるために、著者は日本の本来の勝ち筋で勝負する必要があると説いています。
筆者の言葉から一言で表すと、
「妄想力」
が大切だと述べられています。
日本が世界に誇るマンガやアニメで幼い頃から培われている妄想力を存分に発揮し、まずは実際に試し、それから学び修正する、というサイクルを回していくことが必要だと語られています。
「この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。今度も立ち上がれる」
これは、その映画『シン・ゴジラ(2016東宝)』に出てくる内閣官房長官代理のセリフなのだが、正にそのとおりだ。ここは明るくやり直すべきときだ。
出典:「シン・ニホン」
これは実は日本の歴史を振り返ると過去に幾度となく行われていたやり方で、本来の勝ち筋であるので、日本本来の強みをAI×データ時代でも発揮し、失敗を恐れず勝負していくことが必要だと語られています。
また、日本はハイテク産業にかつて強みを持っており、ほぼすべてのオールドエコノミーをフルセットで、かつ世界レベルで持っている点も、これからのAI×データ時代では強みになると筆者は述べています。
これに関しては私もビジネスマンの一人として実感していることで、私自身はIT領域でのビジネスを中心に業務を推進している立場ですが、スマートフォンを中心としたインターネットビジネスでは既にGAFAMやBATHにイニシアティブを握られているため、真正面から立ち向かうには非常に高いチャレンジになると感じています。
しかし、いまだに世界的にもトップレベルを維持しているモノづくり産業を活かすことで、AI×データ時代において最も必要な「データ」の入口と出口を既に抑えているといっても過言ではなく、正に妄想を形にするデザイン力がカギになると考えております。
現在を生きる我々ができること
また、著者はゲームチェンジを仕掛ける上で求められる人材とスキルとして、
- 普通ではない人=異人
- 未来を仕掛ける担い手である若者
を挙げており、我々ができることは未来ある若者を育てること、そのために必要な改革を具体的に教育の現場から変えていこう、と述べられています。
著者である安宅和人さんは、ヤフーでCSO(チーフストラテジーオフィサー)としての肩書とともに、「慶應義塾大学 環境情報学部教授」としての顔も持ち合わせており、著者自身が現場から変革を推進しておられ、頭が下がる思いです。
名書「チーズはどこへ消えた?」でも語られているように、世の中の変化に順応し、変化を恐れず行動することが、今の日本人に必要なことではないでしょうか?
まとめ
以上、「シン・ニホン」についての書評を書かせていただきました。
分量は多めですが、読み応えがある内容であり、私はサクサクと読むことができました。
今後、我々が突入していくAI時代を明るい未来にするためにも、ぜひ読んでいただけたらと思います。
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